海外留学を考えるにあたって、心配なことの1つに、家族や友人もいない、コミュニケーションも不自由な場所で、もしトラブルが起こったら…というものがあると思います。
もちろん、犯罪や災害に巻き込まれるなど、重大なトラブルの場合は、警察や大使館の助けが必要ですが、日常生活での「困った」にすぐ対応して助けてくれる人が、台湾には沢山いるんです。
それは、阿姨(a1 yi2、「おばちゃん」)たち。
彼女たちの母性本能は、血縁関係、国、言語の違いを超え、初対面の外国人にも、ウザイほど熱い助けの手を差し伸べるよう突き動かすのです。
全く中国語が話せない状態で台湾に渡って、1年8ヶ月。その間、困ったことも数々ありました。それでも、台湾にいい思い出しかないのは、困ったらすぐに手を差し伸べてくれる阿姨たちが、身近にいっぱいいたからだと思います。以下にそんな阿姨たちから受けた親切のいくつかを書きます。
「小姐,怎麼了!?(お嬢ちゃん、どうしたの?)」駆け寄るおばちゃん
台湾での留学生活が始まって数ヶ月、語学学校の帰り道、私はいつものように自転車を走らせていました。いつもと少し違うのは、その日、近所のおばちゃんから「牛肉麺作るから、学校終わったらおいで。」と誘われていたこと、そして、珍しくちょっとオシャレな花柄のロングフレアースカートを穿いていたことです。
ウキウキと少しスピードを上げて走っていたら、突然、全身が後ろに大きくガクッと引っ張られるような感覚と共に、自転車が停まりました。海老反りの体勢のまま、自転車ごと倒れそうになるのをなんとか堪え、サドルから降り、振り返りました。そして、自分と自転車が一体化しているのを知りました。
スカートのほぼ半分が自転車の後輪に巻き込まれていたのです。サドルから降りたことで、ゴムのウエストは、マックスまで伸び、半○ツというか、パンツが60%ほど見える状態。スカートの生地は後輪の軸にがっちり絡まり、スカートはおろか、自転車も押しても引いても全く動かず。スカートの生地がしっかりとした化学繊維だったせいで、手で裂いたりもできません。
それでも何とか自転車との分離を図って、あられもない格好をしつつ、公道でスカートを引っ張り続けること15分。その間、何組かの若いカップルが通り過ぎましたが、吹き出したり、指差してクスクス笑ったりするだけで、誰も助けてくれません。
もう泣きそうになりながら、オイルで汚れた黒い手でスカートを必死に引っ張っていると、歩道の方からタタタッという小走りの足音と共に「小姐,怎麼了?(お嬢ちゃん、どうしたの?)」という声。
見ると50代半ばくらいのおばちゃんが、こっちに駆け寄ってきます。「ああ!ついに!私のスーパーマン!」でも、悲しいかな、この状況を説明できるほどの中国語力がありません。
「腳踏車吃了我的裙子~!(自転車が私のスカート食べた~!)」と言う私に、おばちゃんは、うんと頷き、また来た道を戻って行ってしまいました。
「ええ~?おばちゃんにも見捨てられた?」と絶望的な気持ちでスカートから手で離し、ため息をついていると、2〜3分後、またあのタタタッの足音が。さっきのおばちゃんです。
今度は手に大きなハサミを持って!おばちゃんは、たぶん「そこの食堂から借りて来たんだよ!」というようなことを言いながらやって来て、「いいかい?切るよっ!」と短く確認。私が頷くのとほぼ同時に、バシャッとやってくれました。もうその思い切りの良さといったら!そして、私と自転車の分離のドラマチックさといったら!おそらく、新生児の時にへその緒を切られた時以来でしょう。
とにかく、その一太刀で、私は自転車から解放され、スッキリしたのです。ただ、スッキリとした理由はもっと他にあることにすぐ気付きましたが。スカートの左半分を失い、左足を太ももから全部見せて、呆然と立ち尽くす私に、おばちゃんは何やら言いながら、残りの右半分の布を引っ張って、縛ってパレオのようにしてくれました。そして、「これでよし!」みたいなことを言いながら、またハサミを片手に去って行ってしまいました。
「謝謝,謝謝!」というお礼を背中で受けながら…。
世話好きおばちゃん、ここにも、そこにも
初対面でも、困っている人がいると手や口を出さずにはいられない台湾のおばちゃんたち。これが、顔見知り、友達となったら、しかも外国から来ている留学生が相手となったら、もう、とことんまで世話を焼かないと気が済まない!
あるおばちゃんは、私が冬になっても半袖を着ているのを見て(台湾は一年中暑いと誤解して、夏服しか持って行かなかった私。寒くて震えました。これから台湾留学を考えている方、ご注意を!)、古着を大きな紙袋に2つくれました。おばちゃんが着てたんだろうな、という色、スタイル、においでしたが…。
別のおばちゃんは、普段、黒い服ばかり着ている私に「危ない、危ない!そんなんで、夜外を歩いたら、車にひかれるよ!運転手から見えないからね!」と言った次の日に、ものすごく派手な赤いハイネックのセーターを買って来てくれました。
その他にも、台湾料理を教えてくれるおばちゃん、身体にいいからと何やら漢方の薬草や貼り薬をくれるおばちゃんなど、こちらが助けが必要な時だけでなく、「もういいよ…」と思う時でもおばちゃんたちは、いつでも近くにいて、あれこれ世話を焼いてくれました。
最後に…
快く助けてくれる台湾のおばちゃんたちですが、注意点が一つあります。それは、「おばちゃんに道を聞くのはやめておいた方がいい」という事です。理由は、助けたいと思うあまり、自分がよく知らないのに、道案内をしてしまう、もしくは、あまりに主観的な道案内で、信じると道に迷ってしまうからです。
台湾のおばちゃんたちの温かさ、優しさに触れたら、台湾をより好きになるはずです。台湾に着いたら、まずは、おばちゃんたちに声をかけてみてください。「阿姨,問一下(おばちゃん、ちょっと教えて)」「阿姨,可以幫個忙嗎?(おばちゃん、ちょっと助けてくれる?)」って。