私は2009年11月から2015年3月まで、約5年半かけてイタリア中部にあるフロシノーネ県の国立美術学院でファッションデザインを学びました。伝統と芸術の国でアートを学び、さまざまな経験ができたことはとても有意義でした。

イタリア留学での経験

イタリア留学での経験

フロシノーネ国立美術学院の紹介

ここは1973年に開校以来、近年のテクノロジーを取り入れた現代的な表現方法を追求し、学生の創造的な可能性を伸ばすことを目的としています。

イタリアの美術学院の中で唯一、建屋内に美術館を併設し一般公開しているほか、1999年の国立美術学院改革の際に初めてファッションデザイン科が設置された3校のうちの一校です。

従来の絵画・彫刻・修復・舞台芸術などの他、グラフィックアート・メディアアートなど全部で13コースあり、現在は他大学の教育システムと一致させるべく最初の3年間が学士課程、その後の2年間が修士課程となっています。

入学の経緯、驚きととまどいの連続

日本の大学では全く別の分野を専攻し、芸術については素人だった私がイタリアでアートを学ぶ事になった経緯は、ここの美術学院に勤めていた知り合いに誘われたことがきっかけでした。

しかしながら、軽い気持ちで見学に行った初日から驚きととまどいの連続で、自分がいかに甘かったか思い知ることとなりました。

初年度のデザイン担当の講師は20歳代後半で若かったにも係わらず、厳しくて課題に対する注文が細かく完璧主義でした。自分のプロジェクト案を何度見せに行っても却下され、周りの生徒達から遅れをとって焦りと困惑と自分に対する情けなさで途方に暮れてしまいました。

そんな折、その講師に「何で君はそんなことするんだ。日本人は皆そうなのか!?」と言われたことがありました。それは、自分が日本人の看板を背負っていることを気づかされた象徴的な出来事で、「できない」と言う甘えを捨てて一念発起する原動力になったのです。

海外で日本の文化について再発見

美術学院の講義では、イタリアあるいはヨーロッパの視点から見た日本について知る機会になりました。

美術史ではジャポニスムについて触れ、ファッション史では日本人デザイナーのパリでの活躍について習い、推奨アニメはディズニーとジブリ映画。当時、「もののけ姫」を見ることを勧められたり、技術画の参考に谷崎潤一郎の著書「陰影」を紹介されたことは非常に驚きでした。

講義の方は初年度はついて行くのがやっとでしたが、二年くらい経った頃から段々と自分の勉強のペースがつかめてきて、自分の得意不得意やどの科目がどれ位の評価をもらえるか検討がつくようになりました。

学士論文で泣かされる

学士課程の論文のテーマには以前から興味があった日本のゴシックロリータファッションを取り上げました。

「若者文化」を専門にしている日本の現代の若者文化にも詳しい講師に相談しましたが、私の論文の構成やイタリア語の至らなさの他、「KAWAII」という言葉の解釈の相違で意見が合わず匙を投げられてしまいました。

しかし、辛抱強く何度もその講師に掛け合い、自分の調査結果と見解を見てもらい、語彙を含めてイタリア語を修正して最高点の110点満点+Lodeをもらうことができました。

修士課程とコレクション発表

ファッション学科の修士課程では、自分でテーマを決めて創作活動を行い、またブランディングしなければなりませんでした。

学士課程で苦労したので忍耐力はついていましたが、相変わらず与えられる課題量は多くてこなすのは大変でした。

しかし、芸術音痴だった私もようやく人並みになったのか、修士課程では周囲から余り軌道修正されることもなく、自分の考えで創作を進めて評価されるようになっていました。

また、小さな学科ということもあってそれまでの学内活動を通して先生達と信頼関係ができつつあり、小さなイベントに自分の作品を出してもらえたり、イタリア政府が主催するファッションショーにも参加させてもらいました。

卒業制作は幾何学的な建築物からヒントを得た「建築的服」で最高点の110点満点+Lodeをもらい卒業できました。

イタリア留学から学んだこと

イタリア留学から学んだこと

美術学院では、自分の日本人という原点も含め常にオリジナルなアイディアを持つことと独自の表現法を追求することが評価されました。

また、他人に自分の考えを伝える勇気を持つことも学びました。イタリア人の自由な発想とセンスに触れ、留学で来ている他国の生徒達の視点やアイディアに大いに刺激を受け、切磋琢磨しながら共に学べた経験は自分の内面を豊かにし、たとえ困難に遭っても乗り越える勇気と知恵を与えてくれました。

しかしながら、もしイタリアで何かを学びたい場合はイタリア語の習得はもちろんのこと、学びたい分野の背景や予備知識をもって臨むことをお勧めします。苦労しない留学などないと思いますが、留学は自分について掘り下げる良い機会になり、気づきを得られる又とないチャンスになることでしょう。